なぜ、逃げなかったのか

2019年11月28日
 土地を借りることになった相手の地主は、契約当初からまともではなかった。
 
 おそらく、最初から話し合いに応じる気はなかったのだろう。
 
 とにかく、意図的に対話を拒否することで、自分たちの権益を守りたい。
 
 その考えはいつしか常套手段に。
 
 先代が亡くなってからは、今のT氏に引き継がれた。
 
 実態は、さながら悪徳業者だ。
 
 しかも、こんな人が地域住民に紛れて、普通に暮らしている。
 
 それが恐ろしい。
 
 彼らから土地を借りてしまったうちは、不幸だ。
 
 その点は認めつつ、一方でこんな意見もあるだろう。
 
 最初から向こうのやり方が分かっていて、なぜ逃げなかった?
 
 当事者が生きているうちに動けば、もしかしたら違っていたのでは?
 
 もっともではあるが、感心はしない。
 
 逃げることができるなら、逃げていると思う。
 
 やはり、逃げられなかった、というのが実情だろう。
 
 古民家が災いした。
 
 農地転用も、今度は逆に作用した。
 
 うちの近所では、他人に売ってくれる土地はなかった。
 
 あったとしても、狭い農地とか、宅地に向かない崖とか。
 
 実際、後に購入できたのは農地ばかりだった。
 
 一度奥の手を使ったから、もう二度と農地を宅地にできないのは、明らか。
 
 もし宅地があったとしても、川向うでは土地が高すぎる。
 
 家の移築費用も、足かせになった。
 
 第一、里で築いた農業基盤をどうする。
 
 元より、呂瀬金山へ戻すなんて選択はなかった。
 
 仕事も、家族も、暮らしも、と考えれば、逃げ場所なんてない。
 
 それが現実。
 
 祖父と父親の苦悩を、筆者も追体験したから、よく分かる。
 
 家を壊して出ていくか、耐えるしか選ぶ道はなかった。
 
 しかし、お母さんは耐えられなかった。
 
 逃げられない、という生き地獄の果ての出来事だ。
 
 うちは被害者、誰も責められない。
 
 憎むべきは、相手。
 
 そうでなければいけないのに。
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Posted by くろねこ  at 22:25 │家を守る