なぜ、逃げなかったのか

くろねこ

2019年11月28日 22:25

 土地を借りることになった相手の地主は、契約当初からまともではなかった。
 
 おそらく、最初から話し合いに応じる気はなかったのだろう。
 
 とにかく、意図的に対話を拒否することで、自分たちの権益を守りたい。
 
 その考えはいつしか常套手段に。
 
 先代が亡くなってからは、今のT氏に引き継がれた。
 
 実態は、さながら悪徳業者だ。
 
 しかも、こんな人が地域住民に紛れて、普通に暮らしている。
 
 それが恐ろしい。
 
 彼らから土地を借りてしまったうちは、不幸だ。
 
 その点は認めつつ、一方でこんな意見もあるだろう。
 
 最初から向こうのやり方が分かっていて、なぜ逃げなかった?
 
 当事者が生きているうちに動けば、もしかしたら違っていたのでは?
 
 もっともではあるが、感心はしない。
 
 逃げることができるなら、逃げていると思う。
 
 やはり、逃げられなかった、というのが実情だろう。
 
 古民家が災いした。
 
 農地転用も、今度は逆に作用した。
 
 うちの近所では、他人に売ってくれる土地はなかった。
 
 あったとしても、狭い農地とか、宅地に向かない崖とか。
 
 実際、後に購入できたのは農地ばかりだった。
 
 一度奥の手を使ったから、もう二度と農地を宅地にできないのは、明らか。
 
 もし宅地があったとしても、川向うでは土地が高すぎる。
 
 家の移築費用も、足かせになった。
 
 第一、里で築いた農業基盤をどうする。
 
 元より、呂瀬金山へ戻すなんて選択はなかった。
 
 仕事も、家族も、暮らしも、と考えれば、逃げ場所なんてない。
 
 それが現実。
 
 祖父と父親の苦悩を、筆者も追体験したから、よく分かる。
 
 家を壊して出ていくか、耐えるしか選ぶ道はなかった。
 
 しかし、お母さんは耐えられなかった。
 
 逃げられない、という生き地獄の果ての出来事だ。
 
 うちは被害者、誰も責められない。
 
 憎むべきは、相手。
 
 そうでなければいけないのに。

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