彼
父親の農業は独特だった。
ほとんど、彼のワンマン。
とにかく彼の決めたことを、家族が黙ってやる。
若い頃はそれでうまくいっていたが、祖父母、つまり彼の両親を亡くしてからは、明らかに精彩を欠いた。
酒に溺れ、食事のたびに愚痴や不満をぶちまけた。
それは家中どこにいても聞こえてきて、彼が眠らない限り、大声による言葉の暴風は吹きやまなかった。
毎日のように接していたから、分かる。
彼はアル中だった。
その日も彼は、仕事前に安酒で舌を濡らし、夢心地のままトラクターに乗り込んだのだろう。
そして彼は、帰らぬ人となった。
機械いじりの趣味があった彼の死後には、鉄屑の山と借金が残った。
しかも、肝心のものを切らしていて、保険金を手にすることはできなかった。
なんという、身勝手な死に方。
祖父の残してくれた土地は手付かずだったけど、管理がいい加減すぎて、後が大変だった。
それは、彼の功績だったはずの農業においても同じで。
一応は筆者が跡を継ぐ形にはなったものの、彼のやり方を再現するのは無理だった。
うちの礎を築いてくれた祖父とは、実に対照的。
良いものは何も残さなかった。
それが、彼。